痛みと心の不思議な関係
CD付き
ヴィパッサナー瞑想が出てきたり、ケン・ウィルバーが引用されてたり、
この人かなり研究している。
理論の厚みというか奥が深く信頼できる。
そしてまた、腰痛だけてなはなく、風邪・偏頭痛・うつ、など、
あらゆる原因が明確でなにものへの適用の可能性を感じた。
良書。
●TMS理論とは
・サーノ博士はTMS、すなわち緊張性筋炎症候群の「緊張」の意味について、次のように述べています。
この疾患名の「緊張」は、無意識下で生み出され、ほとんど無意識の外に出ることのない感情を指す。…その多くは、不快、苦痛、決まり悪さを伴う感情で、本人にも社会にも受け入れられず抑圧される。…抑圧が起きるのは、これらの感情を味わいたくない、これらの感情を抱いていることを周りに知られたくないと心が思うからだ。自覚できるのであれば真正面から向き合おうとするのだろうが、いかんせん、人間の心は無意識下の感情を自覚するようにはできていない。またたく間に、それも自動的に、これらの感情を抑圧してしまう。
・身体に痛みがあると、不安や恐怖が意識の大部分を占め、とりわけ身体を動かせないともなれば、本人の注意を完璧に身体に引きつけておくことができます。たとえば抑圧に失敗して、エゴにとって不快なものが浮上してきたとしても、それをみなければいいのです。みえなければないのと同じです。実は、これがTMSで起きていることなのです。
・重症のTMS患者ほど、不快な感情に目を向けたくない – 痛みに注意を向け続けてさえいれば、心の安定が保たれ、精神的破局を避けることができます。だからこそ重症のTMS患者は、頑なにストレスの存在を否定するのです。
・痛みは注意をそらすためのものだという事実に気づかずにいるかぎり、何者にも邪魔されることなく、痛みはその目的を果たし続けるだろう。しかし、いったんその事実を認識し、しっかり理解するや(単なる認識では不十分で、しっかつり理解しなければならない)、ごまかしは通用しなくなり、痛みは消える。痛みの存在理由がなくなるからだ。これをやってのけるのが、まさに情報なのだ。
・TMSは不快な感情から注意をそらすために存在するのです。それは抑圧を助けるための防衛機制のひとつです。では逆に、不快な感情に目を向けるとどうなるでしょう? みたいとも思わなかったものにしっかり焦点を合わせ、じっくり観察してみると、どうなるでしょう? 他にもまだ無意識のうちに注意を向けまいとしてきた感情がたくさんあるかもしれません。それらにもサーチライトをあててみましょう。すると、注意を引きつけることが目的だった痛みは、もはや必要がなくなって消え去るしかありません。つまり、防衛機制が解除されるというわけです。こうした情報を患者に提供することがTMS治療プログラムであり、「認識療法」と呼ばれる由縁なのです。
・痛みの原因は身体それ自体にあるのではなく、ストレスによる一時的な酸素欠乏
・患部の移動は、筋骨格系だけではなく、自律神経が支配している器官であればどこにでも起こり得ます。それは頭痛であったり、胃腸障害であったり、時には皮膚の症状となって現れるかもしれません。
・わたしたちの怒りは実に巧妙に、「抑圧」されたり「置き換え」られたりすることを覚えておいてください。
・筋骨格系疾患に苦しむ患者の多くは、緊張性頭痛、片頭痛、胸やけ、胃酸過多、食道裂孔ヘルニア、胃十二指腸潰瘍、大腸炎、過敏性大腸症候群、痙攣性大腸、花粉症、喘息、前立腺炎、湿疹、乾癬、蕁麻疹、ニキビ、めまい、耳鳴り、頻尿、反復性膀胱炎、易感染症といった健康上の問題を経験していることに気づきました。これらはすべて、「心身症」と呼ばれる病態なのです。要するに、筋骨格系疾患を抱える患者の大部分が、心理的緊張によって生じる病態を経験していたわけです。そこでサーノ博士は、もしかすると患者が訴えている痛みの原因も、心の緊張にあるのではないかと考えました。
・筋骨格系疾患は胃・十二指腸疾患の身代わりとなって増えているという説がある 胃・十二指腸潰瘍はストレスが原因だということが広く知れわたったために減少したけれども、筋骨格系疾患は誰もストレスと結びつけて考えないので増加する一方だ、というわけです。とすると、筋骨格系疾患がストレスによるものであれば、胃・十二指腸潰瘍のように減少する可能性があるのではないでしょうか。
・肋間神経痛や三叉神経痛などがありますが、神経が通っているところはすべてTMSに冒される可能性があると考えていいでしょう。
ここがエッセンス。
やはり、片頭痛や風邪も同じだろうなと確信した。
●怒りの原因
・TMSの原因となる無意識下に抑圧された怒りは、次の三種類に大別できます。
1)日常生活におけるプレッシャーによる怒り
2)幼少時に受けた心的外傷による怒り
3)欲求を満たすために自ら課したプレッシャーによる怒り
・2)トラウマについて
彼らは幼少期における両親との不幸で歪んだ交流の中で、真に甘え、かまわれた経験がない。すなわち、それは粗暴でしばしば体罰を下す父親や、心気的で身体面にのみ関心を払う母親との交流であり、とくに特徴的な点は両親の離婚や死亡などによる明らかな交流の断絶を経験していることである。要するに、粗野で横暴な父親から叩かれたり殴られたりの折檻を受け、心気的傾向を持つ母親優位の家庭で育ち、しかも明らかな形で両親との分離体験がある。そしてこのときに感じた孤独感や不安感は、親への愛憎半ばする感情を伴った攻撃性へと発達し、潜在化してしまっているというのです。
確かに、身の回りで腰痛を持つ人を観察してみると
このあたりのことが、腑に落ちる。
●TMS理論に基づく治療法
・怒りと仲良くなるのです。身体の症状のことは気にせず、まずは、自分の中に怒りがあることを認めましょう。そのためには心の動きに注意を向ける習慣を身につけることです。自分の心の中の感情を、判断することなく、ありのままに受け入れてみてください。そもそも怒りとは、ある状況に対する情動反応のひとつでしかなく、その反応が一定の文化的枠組の中で「怒り」と名づけられているにすぎません。情動そのものは基本的に善でも悪でもありません。
それにもかかわらず、怒りを嫌悪し、みえないふりをしたり、忘れようとしたり、考えまいとするからこそ、いつのまにか怒りが蓄積されてしまうのです。
・どうしてもTMS理論を受け入れられない患者の中には、幼少時に受けたトラウマによる怒りがとてつもなく大きい場合があります。怒りや憤りがあまりにも恐ろしいものであるため、意識に浮上させることに対して「抵抗」するわけです。もちろん本人は、自分が「抵抗」していることに気づいていません。ただTMS理論を理解できない、受け入れられないと主張し続けるのです。
・まず最初は、身体に対する治療を一切やめることです。博士によれば、そもそもTMSがなぜ発症するかというと、身体に注意を向けさせることで、心の中にある怒りに気づかせないようにするためでした。となれば、身体を治療することは患者の注意を再び身体へ向けてしまうことになり、まさにTMSの罠にみすみすはまることになります。
・痛みというトリックを軽蔑し、叱り飛ばしてください。具体的には、自分自身に対して、「何が起きているのかは知っているし、その痛みが無害なのも、怒りから注意をそらすトリックなのも知っている」と告げ、「もう注意を向けたり怖がったりはしない」と宣言するのです。それもできるだけ力強くいうのが効果的なようです。幹部の血流量を増やすように命令するのもいいでしょう。「この状態に甘んじるつもりはない!」「絶対に負けないぞ!」「いいかげんにしろ!」「騙されるもんか!」「ふざけるな!」「このやろう!」など、どんな口汚い言葉でもいいですから、痛みに向かって怒鳴りつけてみてください。TMSの前兆を感じても、あるいはたとえ痛みが再発してしまっても、自分自身に話しかけたり怒鳴りつけたりすることで、たちまち痛みは消えてしまうとのこと。
・TMSが発症するのは、怒りに気づいていないからです。ならば、その怒りの根源となり得る出来事を明らかにし、抑制または抑圧された怒りをしっかり確認できれば、その作業自体が強力な治療法になるはずです。頭の中だけで考えるのではなく、ノートに書き出した方が能率的ですし、問題がより一層明確になります。
・「ニュース断食」をするのです。やってみればわかると思いますが、わたしたちはマスメディアから流れてくる情報に思いのほか苦しめられています。マスコミは暗くて悲惨なニュースを大きく採り上げる傾向がありますから、敏感な人はそれによって大きな影響を受けるのです。これがストレスとなって、怒りの原因になっている場合はよくあります。
・何か注意をそらさなければならない問題が、君の心の中にあることを知る努力をしてほしい。
・TMSの原因は抑圧されている怒りにあります。こうした抑圧されている暗い側面をユングは「シャドウ(影)」と呼んでいますが、このシャドウを意識の表面まで浮上させ、それを受け入れることで、TMSを解決しようとしているのです。
やはり、行き着いたのは「シャドウ」だった。
否定するのではなく、認め、観察する。
認め、観察するというところからも、
ヴィパッサナーとの相性がいいのもうなずける。
風邪の治し方、偏頭痛の対処の仕方も、これと同じかも知れない。
●治療者の心得
・患者からの最高の讃辞「先生が何にもしてくれないので、途中から自分で治すしか仕方がないと思った」もしかすると、これが心理療法の最終到達点ではないでしょうか。
・患者は治療者に対してさまざまな感情を抱きますが、これは「転移」といわれる現象です。転移の中でも、肯定的な信頼と愛情の場合を「陽性転移」、否定的な憎悪と反抗の場合を「陰性転移」といいます。一方、治療者も人間であるからには、患者に対してさまざまな感情を抱きます。これを「逆転移」と予備、肯定的な感情を「陽性逆転移」、否定的な感情を「陰性逆転移」といいます。
・治療者の中には、患者の陽性転移によって自尊心をくすぐられ、「自分の治療は誰よりもすばらしい」「自分は何でも治せる」という万能感に酔いしれてしまう人がいます。誰にとっても自尊心をくすぐられることは非常に誘惑的なものですが、しかし、それが単なる転移によるものだということを認識しておかなければ、大きな勘違いをすることになります。
・こうした転移を自己の個人的人格的魅力に帰すことなく、患者側の過去の体験に由来するものとしたところにフロイトの偉大さがある。これがどれほどストイックな精神を必要とすることであるかは、全てを自己の個人的魅力に帰す数多くの治療者をみれば明らかである。
・逆に…治療家庭における陰性感情の衝突が、元来持っていた怒りや恨みなどの攻撃性を高め、痛みの増幅化、複雑化という悪循環を招いてしまうという事実です。すなわち治療者側の陰性逆転移が、新たな慢性疼痛を作り出している可能性があり、その責任の一端は治療者にもあるといわれています。したがって治療者は、常に転移や逆転移について心の準備をしておかなければならず、治療過程の中でいち早くそれを認識する必要があります。転移や逆転移の問題をうまく処理することなしに治療の成功はあり得ません。ここに慢性疼痛に対する心理療法の難しさがあるのです。
・治療者はこれに耐えられる忍耐強さが要求され、患者の敵意にさらされる覚悟を持って臨床にあたらなければなりません。
陽性転移と陰性転移、そして陽性逆転移と陰性逆転移。
そういうものが既に理論化されて体系的に理解されていたんだ。
びっくりした。もっと早く、知って起きたかった。
人の相談にのる可能性のある全ての人は、この問題を理解しておくと、
1万倍幸せになれる。不幸にならなくてすむ。
●フロイトが唱える「医師としての分別」の中の「中立原則」
救いを求めてわれわれの手に委ねられた患者を、われわれの私有物にしてしまい、患者の運命を彼らに代わって作り出し、われわれの理想を押しつけ、造物主の高慢さをもって自分の気に入るように仕立て上げることは、断固として拒否する…要するに、治療者の価値観、道徳観、信念体系などを患者に押しつけ、自分の気に入るように教化してはならないということです。物事の価値判断は患者自身が選択すべきで、さもなければ患者は治療者への依存が断ち切れず、むいつまでも自立できないことになります。TMS理論を使うかどうかを決めるのは患者の自由であり、無理に口をこじ開けて薬を放り込む必要性など、どこにもありません。
多くの宗教的指導者、グルたちが魔境に落ちてしまうパターン。
それを、フロイトが医師の立場で語っていたというところ、
とても興味深い。この本の中で一番の発見かも知れない。
●証明
・腰痛を訴えるのは三、四十代がもっとも多く、その後は歳をとるにつれて徐々に現象していきます。はじめて腰痛を体験した年齢も、二十代をピークに減少しています。老化現象と腰痛は関係ないということが、これではっきりしたでしょう。
・ところがこの実験、実は血液など抜き取ってはいなかったのです。彼にはただの水滴の音を聞かせ、体内の血液が失われていると思い込ませただけだったのです。これが最近注目を集めている「ヴードゥー死」、あるいは「ノーシーボ」と呼ばれる現象です。
・腰痛研究で世界的に有名なアルフ・ナチェムソンは、「大部分の腰下肢痛の原因は判明していないので、患者の98%は保存的(非外科的)に治療すべきだ」というのです。神経の圧迫は持続性の痛みを引き起こしません。たとえ何かに神経が圧迫され続けたとしても、痛みは短時間のうちに消えて麻痺に変わるものです。ですから、いつまでも治らない坐骨神経痛の原因が、椎間板ヘルニアにあるとはとうてい考えられません。
・あまりにも多くの人々が、背骨や骨盤のずれが腰痛の原因だと信じ込んでいるようです。しかし、それが痛みの原因だと科学的に証明されたことは、これまでただの一度もありません。1)触診でみつかる背骨の不整列は以上ではありません。2)骨盤の歪みは誰にでもみられるもので、異常とは考えられません。3)背骨や骨盤のずれという原因論では、四十代以降に腰痛が減少する事実の説明がつきません。
・腰痛を起こした人は、必ず何がきっかけで痛くなったのかを思い出そうとします。腰痛の原因を探ろうとしているのでしょうが、何年も前の出来事を持ち出してきて、なかには20年前に転んだせいだと主張してゆずらない患者さんもいます。しかし、骨折でもないかぎり、急性腰痛と外傷とは無関係です。
・アメリカのガイドラインでは、いずれの注射療法も侵襲的(平たくいえば暴力的という意味)であり、急性腰痛の治療には勧められないと勧告しています。
これは、説明資料として。
納得するための事例として。
●急場しのぎ
・脊椎療法あるいは脊椎マニビュレーションが無効だといっているわけではありません。理由はわかりませんが、「急性腰痛」に対する効果は広く認められています。
・腰痛が起きたら、代替医療ではなくて現代医学の医師に最初に診てもらうべきなのです。骨折や悪性腫瘍の有無の確認は最低限しなくてはいけません。重大疾患に冒されているかどうかを調べもせず、最初から代替医療を選択するのは、きわめて危険で愚かな行為といえます。
・TENS(電気鍼も含む)に関する無作為対象試験は豊富にありますが、どの研究においても厳密な意味での効果は確認されていません。つまり、見せかけの治療群との差は認められておらず、危険もないかわりに効果もないことが証明されているのです。
・特筆すべきは、1979年に発表されたニュージーランド政府によるカイロプラクティックに関する調査で、このレポートは世界中に大きな影響を与えました。というのも、「カイロプラクティックは非科学的なインチキ療法とは程遠いものであり、背腰痛などの筋骨格系の症状を取り除く有効な手段である」と政府の調査委員会が正式に宣言したからです。
・アメリカのガイドラインでも、「急性腰痛の症状改善は、市販の鎮痛剤とマニピュレーシヨンによってもっとも安全に達成される」と勧告しています。
サーノ博士と長谷川氏は、ある一部分だけ意見が異なっているようだ。
全ての治療を止めるのか、急場しのぎの代替医療の方法を認めるのかどうかという点。
いずれにしても、急場しのぎの方法が必要なら、カイロが有効ということ。メモ。
●その他
・健康保険制度では、心理療法に対する診療報酬の点数がきわめて低く設定されています。ということは、精神科医といえども、心理療法に興味を示さない医師が増えてくるということになります。現にほとんどの精神科医は、心理療法よりも薬を処方することに重点を置いています。
・腰を曲げること自体は、腰痛とは何の関係もありません。ところが、本人だけでなく医療関係者も、これが腰痛の原因だと信じ込んでいます。そこで「腰を曲げてはいけない」という「条件刺激」を与え続けていると、腰を曲げる動作と腰痛とを結びつける「条件づけ」が成立します。そうなると腰を曲げるたびに、実際に腰痛を起こす可能性が高くなります。(パブロフの犬)
・「社会的再適応評価尺度」過去一年間にあてはまる項目の合計が150点以下なら、向こう一年間のうちに病気になる確率は37%、151~300点では53%、301点以上では80%を越えるとされています。