皮膚から考える命、こころ、世界
神田さんの音声の中でこの本のことが触れられていて、
興味をもった。
脳
第二の脳 : 消化管
第三の脳 : 皮膚
●第三の脳=皮膚と脳の共通点
表皮には様々な環境因子を「感じる」受容体があります。さらに、大脳で高度な情報処理に寄与している受容体も表皮には存在するのです。表皮は「感じる」だけではなく「考えて」いるのかもしれません。
脳でも、基本は個々の細胞の相互作用、そのネットワークが高次機能の基です。この点、表皮も同じです。細胞の相互作用のありようが異なるだけです。そう考えると、脳と表皮との間に本質的な違いはないようにも思えてくるのです。
A・ダマシオ博士の、意識、理性、情動、そしてこころは、有機体としての身体との相互作用で生みだされるという説を改めて支持したいと思います。
「脳」という言葉を情報処理システムを内蔵する臓器と考えるなら、「脳」は全身に分布しています。
視覚障害者が、進路に立ちふさがる障害物を回避したり、分かれ道で立ち止まったりすることはよく知られています。
…. しかし、あるとき、選手たちにハチマキをさせたら、その途端、たちまち選手たちはコースから外れてスピードも出ず、競技そのものができなくなってしまった。博士が彼らに聞くと、うまく説明できないが、額、つまりおでこでモノを「見て」いるので、ハチマキされると「見えなくなって」困るというのだそうです。
脳科学がはやっているが、確かに脳がすべてを「統括」しているという考え方ではなく、相互依存しながら成立しているというホーリスティックな見方の方が真実に近いように思える。
●皮膚のケア
2007年の研究皮膚科学会で、精神的ストレスを受けた場合、脳が指令を出して副腎から放出されるグルココルチコイド(人間の場合、コルチゾール)を表記細胞のケラチノサイトが合成し、放出しているという報告がありました。さらに皮膚に傷ができるとコルチゾールを合成する酵素が表皮の中で増えるというのです。つまり精神的なダメージも皮膚のダメージも同じ変化を身体にもたらすのです。皮膚のケアはこころのケアにつながる可能性が高くなってきました。
外気功の治療院では、患者の身体を金の棒で摩擦する施術を行っていました。金に秘密があるはずです。他の金属は大抵ピカピカしていても、空気中では酸化皮膜がすぐできます。しかし金は金のまま。つまり純粋な電気伝導体としての表面を保っています。金と皮膚との接触面に電場が生じていた可能性が高いということです。それが皮膚に作用する。さらには皮膚の内部の細胞、神経にも作用する。
スキンケア/メイク/マッサージ/宝飾品…これらを女性が好むのは、たんに見栄え気にしているだけではないのかも知れない。敏感な感覚をもつ女性は、無意識にこれらの価値を理解しているのかも知れない。
もちろん、偉大なヨーギーが宝石の持つ効果を認めていたように、使う石は選択する必要があるかも知れないが。
●自己組織化
閉ざされた系で成立するエントロピーの法則は、開かれた系、つまりエネルギーや情報が出入りできる系では成立しません。エネルギーの流れの中では、高い秩序をもった構造が自然に形作られることがある。、これが自己組織化減少です。生命はまさに自己組織化系にあたります。
因果律、つまり過去から未来への時間をあからさまに見せるのは、熱力学第二法則、すなわちエントロピー増大の法則です。水に落としたインクが拡散することはあっても、一度拡散したインクが自然に再集合として濃い一滴に戻ることはありません。こういう現象を「外部」で観察することに慣れてしまった私たちは、それがすべてのものの理であると「錯覚」しています。時間が過去から現在へ、そして未来へ流れるのは閉鎖系でしか見られない現象です。生命は閉鎖系ではありません。ですから時間の流れが存在しない、あるいはその方向が私たちの常識とは異なっている可能性があります。プリゴジンらが確立した開放系の熱力学では、シュレディンガーが予見したことが数学的に証明されています。すなわちエネルギーや情報が出入りできるシステムの中では、「自己組織化」が生じる、すなわち無秩序から秩序が立ち現れる。ここに因果律は成立しません。つまり、生体の内部環境では原因が結果をもたらす、あるいは過去が未来を決定する、そんな「常識」が通用しない可能性があります。
2010年宇宙の旅のような映画のシーンを思い出した。
今の時代にうまれてきている子どもの趣向の変化や肉体の進化なども、未来が現在を決定している可能性があるなぁと思う。この部分の記述が一番興味深い。イリヤブリゴジン、エーリッヒヤンツなど、早く読みたくなった。
●脳ではなく、皮膚感覚がアイデンティティ(自我)をつくる。
優れた脳の研究者であったリリー博士は、その装置の中で自らの意識が肉体を離脱することを感じました。アイソレーション・タンクを用いてもっと客観的にその状況を記述した記録を探すと、二つ、信頼のおける体験談がありました。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』のノーベル物理学賞受賞者R・ファインマン博士、そして『臨死体験』の立花隆氏です。
情報処理や恒常性維持(外部環境の変化に対し身体の中の状態を一定に保つこと)は、身体のあちこちの器官で、脳とは独自にやっています。それどころか、脳の機能であると考えられてきた意識を正常に維持するには、骨や筋肉やそして皮膚が必要なのです。
山下氏は、今の若者は幼少期に皮膚接触の機会が少なく、自己と世界の境界である皮膚の認識があいまいになっている。そのため皮膚にあえて様々な痛みや障害を与えて、境界としての皮膚を再認識している、と主張されています。
ヨーガでは、アイソレーションタンクを使わずに、身体技法(例えばヨーニムドラーやプラーナーヤーマ)によってプラティヤハラ(制感)をつくる。そしてだからこそ、旗ヨーガーによって肉体の動きも大切にする。科学が進化すればするほど、ヨーガの意義が理解されていくんだろうな。
●東洋医学
身体には様々な臓器があり、それぞれが異なった生化学的反応を通して、独自の役割を担っています。どこかが異常だからと、そこばかりに注目して局所的な対応をすると、他の部分に思わぬ副作用が発生するのも道理です。
身体の中では、様々な臓器やシステムが相互作用しながら一定の状態を保っています。一部に変化が起きると様々な部分にその影響が現れ、思いもよらない大きな全体の変化となります。東洋医学でははじめからそれを認識していたので、全体のバランスの正常化を治療の主眼としています。
確かに、自己組織化ということを考えると、病気というものは、相互依存している他の組織との自然連携によって発生している何かかも知れない。局所的に薬やメスを入れてしまうことは、この連携を断ち、破壊してしまう可能性がある。西洋医学的な治療は、非常に危険だといわざるを得ない。
●オキシトシン
授乳期の赤ちゃんがお母さんの乳首に吸い付くと、お母さんの下垂体後葉からオキシトシンというホルモンが出て、お乳が出ます。動物実験では皮膚接触によってオキシトシンの分泌が促進されたという報告が素手にります。
どうもオキシトシンは他人との信頼関係、相互関係の維持に役立っていそうです。さらに2007年には、免疫系で知られていたCD38という受容体がオキシトシン合成の調整をしていることが報告されました。人間社会の基盤である、他社への信頼という感情に作用する物質がある。そしてその物質が皮膚への刺激で分泌されるのです。
と、いうことは母乳の出が悪かった場合などは、オキシトシンの分泌が少なかった可能性があり、信頼関係に影響が出ている可能性がある。また、皮膚接触 – つまり夫婦関係や、少なくともマッサージというスキンシップが増えれば夫婦関係は安定し、それが減る – セックスレスになっていけば夫婦関係は信頼関係を失っていくということになるのかも知れない。
●その他
婦人科医であるルボワイエが提唱する出産テクニックはこれを生かしています。新生児を、照明を落とした部屋でそっと母親の腹の上に置く。そしてやさしくマッサージします。こうすることによって子宮の中の世界の記憶を喚起し、次第に新しい世界になじませてゆく、というものです。
同じ痒みであっても、抗ヒスタミン剤は、アトピー性皮膚炎の痒みにはほとんど効果がないのです。