ガルシアへの手紙

A Messsage to GARCIA

— ただ、言いたいのは、次のようなことだ。それは、マッキンレー大統領がローワンにガルシアへの手紙を渡したが、そのときローワンは、その手紙を黙って受けとり、「ガルシアはどこにいるのですか」と聞かなかったということである。—
この「ガルシアへの手紙」は、これから社会人になるすべての若者が読んでおくべきだと、思う。


●できない言い訳と逃げの人生

皆さんに、ちょっと試してほしいことがある。
今、あなたはオフィスにいる。そしてすぐ近くに6人の部下がいる。その中の一人を呼び、次のように頼んでほしい。
「コレッジョの生涯について、百科事典で調べ、簡単なメモをつくってほしい」
と。その命じられた部下は、何も言わずに、「わかりました」と言い、そして、その頼まれた仕事をやるだろうか。おそらく彼は、そうしないはずだ。彼は、どんよりとした、やる気のない目であなたを見て、次のような質問の一つや二つをするに違いない。
「コレッジョとはどんな人ですか」
「どの百科事典を調べるんですか」
「百科事典はどこにあるのですか」
「私はそのためにここで仕事をしているんですか」
「ビスマルクのことですか」
「チャーリーにやらせたらどうですか」
「コレッジョは生きている人なんですか」
「急ぐんですか」
「私が百科事典を持ってきますから、ご自分で調べられたらどうでしょう」
「なんのために知りたいんですか」
あなたが部下の質問に答えて、どのようなやり方で情報を求めるか、なぜその情報が必要なのかを説明した後に、その部下は、十中八、九、他の社員に”ガルシア”を見つける手伝いをさせたうえで、「そんな”ガルシア”というような男はいません」とあなたに報告するであろう。

ガルシアへの手紙を頼まれたなら、その信書を静かに受け取り、バカな質問をせず、近くの下水に捨ててしまおうなどとも思わず、ガルシアへの手紙を届けることに全力を尽くす人は、決して仕事をクビになることはないし、賃金の値上げを求めてあれこれ画策することも必要でない。

ただこの話は、それが「命令や指示」なのか、それとも「依頼やお願い」なのか。あるいは同じ目的を持つ協力関係にあるのか、それとも単なる契約関係ななのか、という前提条件をちゃんと考えておく必要がある。戦争中に上官から言われる場合と、信頼関係もない、あったばかりの見知らぬ人に街で頼まれたのでは、意味が違ってしまうということだ。
現代においては、「ガルシアに手紙を届けられる人がいない」と嘆く前に、まず、依頼する人とされる人の信頼関係を考え直す方が先だ。部下は上司のロボットではない。戦地での仲間とは違って、会社あるいは職場上司というのは、従業員が本当に困った時に命がけで守ってくれるとは限らない。現代社会では、むしろ簡単に切り捨てられることの方が多い。このような状況では、上司という立場だけで、与えられた責任以上の忠誠を部下に強要することはできないし、強要されたくもない。そのことに、部下の方も気づいているからこそ「ご自分で調べたらいかがですか」という言葉が出る。
もっとも、本来の契約あるいは雇用契約範囲に含まれる当然の仕事についても、言い訳をしてやらない人が多い…という残念な現実も、もちろんある。それは、著者のいおうとしていること、そのままだ。
●強い日本 奇跡の日本の原動力

当時の日本人が心の支えとして、それこそバイブルのように読んだ二冊の本があった。一冊は、中村正直が訳したサミュエル・スマイルズの『セルフ・ヘルプ』である。日本語訳本では『西国立志編』とタイトルがつけられた。イギリスというような小国がなぜにあれほどまでに超大国となれたのかの秘密がこの『セルフ・ヘルプ』すなわち「自助」の精神にある。中村正直がこの『セルフ・ヘルプ』を訳して明治四年に世に出したとたん、実に百万部以上読まれた。当時の日本の人口は三千五百万人くらいである。成人のうち、よほどの変わり者とか勉強嫌いを除いた人たちが皆んだと見ることができる。
もう一つの本は、福沢諭吉の『学問のすすめ』である。『西国立志編」同様ただちに二十二万部読まれたという。福沢は日本国民の160名のうち1名は読んだと合本版の序に自ら述べている。その後もこの本は読まれ続け、一説によると、350万部くらい読まれたのではないかといわれている。
私は、「本を読もう」といつも訴えている。「本を読む人は、人間的に成長する」と主張している。それは、本を読む人は、自分を成長させようという問題意識をどこかに持っているからである。もちろん、かつて、福沢諭吉やサミュエル・スマイルズがそれぞれの著書の中で、本を読むだけが、そして学校の学問だけが学ぶことではないし、修養することではないと述べているように、私も、読むだけで人が成長するとはいわない。ただし、本さえ読もうとしない人に、夢の実現とか、自分の成長がどうのこうのとはいえないだろうと思うのだ。つまり、本を読むことが出発地天である。前提は自分を成長させようという意欲だ。心だ。そして、まわりの人たちからも学び取り、自分の実体験を反省しつついろいろと吸収し、進んでいくのである。

今、何がミリオンセラーになっているのか、それをみると、現代の日本がどういう状態にあるのかがわかってくる。逆にいうと、そういう本が出てこなくては、ならない。

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