なぜブ男でもナンバーワンになれるのか
向谷氏は、ヤクザ・金融・ホストなど、欲望がより直接的に表現される、人間の本質とか限界のコミュニケーション・心理を詳しく描いてくれる。だから、ここを理解しておくことで、表層意識で覆った人間の本質が見えてくる。恋愛にしても、セールスにしても、人間の本質的な心を理解するためには、必須のことがたくさんみえてくる。
●女性のプライド
昼間の路上キャッチのように、手当た次第に声を掛ける姿を女性に見せたのでは、たとえ興味があっても、(みんなが避けているのに、私だけ立ち止まったんじゃ、カッコ悪い)という気持ちになる。要するにプライドが許さないのだ。そのあたりの女心を知ったうえで、後ろからやさしい言葉で不意をつき、笑顔で安心させながら、「よかったらどうぞ」と相手に決定権を委ねながら誘う。
逆にいうと、女性のプライドを満たしてあげる形のナンパなら、簡単にのってしまう可能性もあるということになる。
●お客さんは何を欲しているのか
自信があるから、謙遜することで「そうじゃない」というセリフをホストに言わせて、いい気持ちになりたいのだ。だからホストは、ここぞとばかりに突っ込む。「あなたのように彫りの深いお顔立ちをして、地味だなんて、世の女性たちが聞いたら怒りますよ」
謙遜は自信の裏返し。そのままうけとったのではいけない。相手が本当はどんな言葉を求めているのか、それを理解することが大事。
洋服売り場で、黒と白と、どっちにするか客が迷って、アドバイスを求めてきたとする。ここで注意すべきは、すでにこのとき客はどちらかに決めていて、相談という形で賛同を求めているというとだ。そこを考えないで、客が白い洋服を決めているのに「黒がいいんじゃない」と答えたのでは「そうかしら」客は不満顔をする。ここは、どっちの色が似合うかではなく、どっちの色を客は欲しているかを見抜き、「もちろん白でしょう」と答えれば、客はニッコリとなる。洋服を選ぶのも、人生の悩みも、本質はこれと同じ。お客さんにとって、どういうアドバイスがベストか思い煩う必要はなく、どういうアドバイスを欲しがっているかを見抜いて、それを結論として話してあげればいいんです。そうすれば、あの人は私のことをわかってくれる—。感謝感激ですね。
カリスマ占い師の手法と同じ。
気の利いたホステスは、客の歓心を買いそうな経歴を自作して、自らのイメージを演出するのだが、これはホストも同様である。客との会話は、いつまでも過去のストーリーをテーマにしていないで適当に切り上げ、将来の話に持っていくのがポイントだ。「ホストという商売は決していいとは思っていないさ。でもね、ボクには夢があるんだ。将来は…」その夢の実現のために、こうして頑張っているのだという流れに持っていき、「じゃ、私も応援してあげなくちゃ」となれば万々歳なのである。
母性本能をくすぐってファンをつくる方法。なんていうキャッチが思い浮かんだ。これを日常的にやってしまうのがホストなんだなと思う。つまり、相手の中にある「母性を働かせたい」という本質的な欲求を満たしてあげているということ。自らその対象になってあげることも、顧客要求の満足なのだ。
●主導権
あっさり”じゃあね”と切られると、相手は気になっちゃうんです。何か用事があったんじゃないか、とかね。で、一週間ほど様子を見ていて、店に来ないようなら、また電話する。このときも、「元気?」「元気だけど、何なのよ?」「別に。ちょっと声が聞きたかっただけ。じゃあね」こんな感じで切る。
釣った魚にエサをやるにしても、ただ漫然とやったのでは、それが当たり前だと思って、つけあがるというわけだ。そこで、どうするか。バシッ、と叱りつける。理由はいらない。ただ、怒ればいいのだ。できれば、電話がいい。
「もう会わないから、店にも来ないでくれ」
「どうして!」
「そんなこともわかんねぇのか。オレ、バカは嫌いだから」
ガチャン、と切る。ホストが怒っている理由がわかれば、「それは違うでしょう!」と反論もできるが、何を怒っているのかまったく見当がつかない。客は頭が混乱してきて、「あたし、どうしたらいいの?」ヘルプに泣きつくことになる。
客に自分の誠意を信じさせようと努力するのは二流のホストで、一流になると、客が自分に言い聞かせる材料を提供することに注意を払うのだという。そして人間は、自分に言い聞かせて取った行動に対しては、結果がどうあれ、あきらめがつくものなのだ。
もし客が約束の時間に来なかったらどうするか。それでも待ち続けるのは二流ホスト。特に相手が若い女性客の場合、一流ホストは、時間と同時にさっさと帰ってしまう。客は泡を食って携帯に電話してくるだろうが、出ない。留守電も無視する。店に来ても、ヘルプにまかせてテーブルにつかない。客がベソをかいたところで、ヘルプがうまく取りなすわけだが、この一件で、ホストは主導権を手中にしたわけである。これを「主従関係」の第一歩として、客は”貢ぎの道”を転げ落ちていくことになる。
自分から切っていくことで主導権を絶対に譲らないこの方法は、Mr.Xの旧AdvanceMindで学んだことに通じる。ここを間違えると、夫婦の場合では尻にしかれるという状態になってしまう。心理操作を狙う必要は無いけれど、自分を捨ててはいけないのだ。お金を「引く」だけが目的のホストは別として、夫婦の場合に限っていえば、相手が堕落してしまわないような調整も、やさしさではある。
君がしっかり稼いで清算してくれれば、ずっとこのお店に来れるし、ボクと楽しい時間だって過ごせるじゃない
借金で風俗に身を落とす女性たちにホストがかける言葉。つまりお金だけのつきあいだといっているだけ。でもハマってしまった女性は、この言葉、錯覚を覚える。錯覚すらさせてしまう。
●謝罪しつつ主導権をとる方法
言い訳というのは、すればするほど相手に追及のネタを提供することになるのだ。ベストは、「ごめん」と、素直に謝ること。言い訳はしない。オーバージェスチャーもしない。「ごめん」という一言で、ボールは相手に投げ返されたことになり、相手は謝罪に対してどう対応するか、決断を迫られるのだ。しかもその決断は、「許すか、許さないか」 – 二つに一つ。自分自身という「人格」との戦いになる。(遅れた相手が悪い、だから自分は怒る、しかし謝っている、それでも自分は怒るのか…)これはプレッシャーだ。
潔く謝られた時に「ずるい」と感じるのはこのようなケース。反対の立場で「ごめん」と潔くあやまって操作しようとする人の術中にはまらないように、気をつける必要がありそうだ。彼らは男らしいのでも潔いのでもなく、ボールを投げ返してしまうという無責任なのかも知れないのだから。
●じらす。すぐに食べない。自分のセルフイメージを高くもつ。
人を喜ばせるというのは、料理と一緒で、小出しにするから価値があるんです。だから、懐石でも中華でもフランス料理でも、コース料理は一品ずつテーブルに出てくるじゃないですか。一度にドカンと出されたら、最初こそ目移りして感激しますが、それもすぐに冷めてしまいます。次に何が出てくるんだろうというワクワクする楽しみがないから。客とのデートもそれと同じで、お茶したら次回は食事、三回目は映画、そして遊園地、ショッピング、ドライブ、芝居….。一品ずつ出して、”次”につないでいくべきだという。そしてセックスまで考えるなら、それは最後の最後、ギリギリまで取っておく。お客さんが、高いお金を払ってフルコースを注文しているのに、メインディッシュから出すバカはいないでしょう。すぐに寝ようとするホストは牛丼屋みたいなもので、手っ取り早く客のお腹を満たすことはできるけど、客は食べたらすぐに店を出ていきますから。それより何より、牛丼屋じゃ、高いお金は取れないじゃないですか。
内心ではシメシメと思っても、感激なんてしちゃ、絶対にだめなんです。”ルイ”なんて当たり前で、ちっとも嬉しくないという姿を見せることがポイント。すると客は”学習”します。この人を喜ばせるには、もっと高いお酒を入れなくちゃだめなんだな、と。
「いらないよ。百やそこいらなら、オレだって持ってるから」
とくに、料理のたとえはすごくわかりやすい。ホストだけでなく、人の欲望をあつかう商売をするということは、自分の感情をコントロールできていないとできないなということだろう。